2018年12月25日

交響曲第三番 「コミタスに捧ぐ」

定期演奏会に先立ち、今回が日本初演となる、アレキサンダー・コミタス《交響曲第三番 「コミタスに捧ぐ」 》のプログラムノートを公開します。なかなか聴く機会も少ない曲だと思いますので是非聴き逃しの無いように。当日会場でお待ちしております。

Alexander Comitas(1957~)はオランダの作曲家。吹奏楽のみならず様々な編成、形態の作品を手掛ける。本名はEduard de Boerといい、Alexander Comitasというペンネームはオランダのピアニスト、作曲家Sas Bunge(Ernst Alexander Bunge)とアルメニアの作曲家、民俗音楽学者Komitas の2人から取られている。また、Comitasはラテン語で「礼儀正しさ、親切」を意味する。
Komitas (1869~1935)はアルメニアの作曲家、民族音楽学者。孤児となり神学校にて学ぶ中でその音楽的才能を見出され、アルメニア民謡の収集を始める。その後ベルリンで西洋音楽を学び、コンスタンティノープルに拠点を移し音楽活動に勤しむ。後述するジェノサイドに巻き込まれた後、回復することなくこの世を去る。
この交響曲はComitasがKomitasへ捧げた曲であり、アルメニアの民族的なメロディがふんだんに盛り込まれている。Comitasはこの曲以降、“Alexander Comitas”という名前の役目は果たしたと言いこのペンネームを使うことをやめた。Comitas にとって非常に重要な意味を持つ作品である。全4楽章構成であるが、2楽章以降は切れ目無く演奏される。

第1楽章 Recollections 「追憶」
1935年、フランスはヴィルジュイフのとある病室にて、死ぬ間際のコミタスは走馬灯のように己の人生を振り返る。
コミタスが作曲したErvum em ( https://youtu.be/Aj9Ijk8_F0w )という朝の情景を描いた歌による穏やかな序奏により曲は始まる。しかしすぐにトルコの民族楽器ズルナを模したオーボエの旋律が不穏な空気を醸し音楽は中断される。Ervum emが再現されると、二つ目の重要なテーマであるアルメニア正教の聖歌Der Vorghormia ( https://youtu.be/UAT_ncnhqJQ )の旋律がダブルリード楽器とトロンボーンによって奏でられる。その後もトルコの影は見え隠れするが、Ervum emが力強く奏でられたあと、Gakavig (ヤマウズラの歌)( https://youtu.be/bIJ6d-0z4g8 )の主題がトランペットにより印象的に挿入される。ここから一転、Garun ( https://youtu.be/mr8FcPtCqV0 )という春の歌を主題とする平和的なアレグレットになる。コミタスのSix Dances ( https://youtu.be/kzDsav2Hgj8 )よりMaraliとUnabiがテナーサックスによって奏でられる。平和的な中にもトルコの主題が影を落とし、曲は激しいフガートへと突入する。Ervum emを始めとするこれまで出てきた主題が形を歪め、コミタスの人生における苦難を描写する。アレグレットの再現部を経て、聖歌が一瞬現れる。Maraliがtuttiで奏でられると、次第に音は薄くなり最後はB♭ minorの和音で儚く終わる。
これからアルメニア人に、そしてコミタスに訪れる悪夢を暗示するかのように。

第2楽章 April 1915 「1915年4月」
1915年4月24日、それは突如として始まった。
1914年に第一次世界大戦が始まると、汎トルコ主義を掲げるトルコは帝国領内のキリスト教徒、すなわちアルメニア人を排除することに決めた。当時のトルコ経済はアルメニア人資本家が大きな力を握っており、その財産を没収することも目的の一つであった。
1915年4月24日、当局はイスタンブールに住むアルメニア人指導者、作家、詩人、教師、弁護士など200人以上を逮捕、殺害した。コミタスも捕らえられ内陸部の収容所へ移送されたが、かろうじて死を免れた。1915年〜23年の間に帝国内に居住していたアルメニア人250万人のうち150万人が殺害されたと言われている。
 強烈な打ち込みで始まるアレグロは、第一楽章で出てきたトルコの旋律Ben Bu Yıl Yarimden Ayrı Düşeli ( https://youtu.be/eww1RXmA-Lw )ともう一つの旋律Süpürgesi Yoncadan ( https://youtu.be/lMgXmTHV5pw )が複雑に絡みながら進行する。一度落ち着き悲痛なErvum emが聞こえるが、再びアレグロに入り変拍子が多用され激しさと混乱が増す。Ervum emとトルコの旋律が入り乱れ混乱が頂点に達すると、tuttiによるDer VorghormiaとErvum emが虐殺されたアルメニア人の無念を晴らすかのように奏でられる。
 
第3楽章 Grief 「嘆き」
ジェノサイドをかろうじて生き延びたコミタスであったが、心に傷を負い現代におけるPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状を発症する。以前のような作曲・民謡採集もままならなくなり、フランスでの療養生活を余儀なくされた。
 Der Vorghormia (主の御慈悲を)の旋律がジェノサイドで亡くなった全てのアルメニア人の救済を願い奏でられる。殺された彼らには何の罪もなく、ただ「アルメニア人」であっただけである。「アルメニア人であること」は一方的に虐殺されるほどの罪なのだろうか。アルメニア人が一体何をしたと言うのだろうか。コミタスは悩み、苦しみ、問いかける。

第4楽章 Eternal Peace 「恒久的平和」
コミタスは願う。世界の平和を。同じような悲劇が二度と起こらないことを。
Six DancesよりHet u Arajののどかな旋律が5/8拍子に乗って奏でられる。Comitasが作曲したVita Aeterna ( https://youtu.be/j93PdE4F-Uw )の主題が2拍子(6/8拍子)で挿入され、穏やかな空気を作り出す。第一楽章で少し姿を見せたGakavigの主題が平和の喜びと優しさを溢れされながら温かく奏でられる。アルフレッド・リードのアルメニアンダンスパート1でよく知られている旋律であり、幼いヤマウズラがよちよち歩きをしている様子を描いた歌である。舞曲が再現され、変拍子を挟み最高潮へ達するとtuttiによりGakavigが奏でられ平和が高らかに歌われる。穏やかで優しい空気のまま音楽は収束していき、アルトサックスによって平和的に形を変えたトルコの主題が奏でられる。第一楽章の終わりと対照的にB♭ majorの和音で幸せにコミタスは息を引き取る。

posted by 大阪大学吹奏楽団 at 23:51 | Comment(0) | お知らせ